NF亭ショウタです。
少年ジャンプで連載された、マンガ家をテーマにしたマンガ「バクマン。」を知ってますか?
この作中で、極めて革新的なマンガ制作システムが登場します。
そして、この制作システムが、DAO化にとても適しているのです。
将来的に、個人でも多数の名作マンガを生み出していける可能性を秘めています。
この記事では、
- DAOに適した制作システムの全体像
- 可能な戦略
- あらゆる娯楽作品 制作組織がDAO化?
…について、解説していきます。
「バクマン。」とは?
マンガ家の成長を描くマンガ
バクマン。は、少年ジャンプのマンガ家として成長していく少年たちを描いたマンガです。
週刊少年ジャンプで、2008年8月〜2012年4月にわたって連載されました。
アニメ化・映画化・舞台化など多方面にメディアミックスされています。
「バクマン。」作中で否定された、マンガ制作方法
七峰透が発案・実行
七峰透は、作中の登場人物であり大会社の社長の御曹司です。
少年ジャンプに作品を持ち込み、作品を連載しました。
洞察力が鋭く、他者が考えもしないようなグレーゾーンな戦略を実行します。
そして、マンガの制作する方法も極めて独創的・合理的であると同時に、情が希薄な印象を受けます。
(しかし、情が希薄というのは、それを強調した演出がされているだけであり、少年ジャンプ編集部も同じようなことをしてる…と個人的に思います。)
七峰透のマンガ制作方法
七峰透は、大別すると作中で2回登場しています。
それぞれの戦略を解説します。
1回目:50人の原作者・無報酬
ネット上で参加者たちと会議をして作品のアイデアを出していきます。
参加者たちは50人もの大所帯です。
- 50人の参加者がアイデアを出す
- それを七峰徹が作画して、さらに参加者が添削して完成度を上げていく
50人の原作者がストーリーを作り、それを七峰 透が作画してマンガ作品として完成させます。
そうして作られた作品は、少年ジャンプ編集部にて絶賛されました。
しかし、連載が始まると、徐々に人気が下降して打ち切りを喰らいます。
その理由として、
- どこかで見た設定の寄せ集め
- 詰め込みすぎ
- ブレブレで一貫性が無い
…という欠点があげられています。
また、
無報酬の参加者たちは、調子が悪くなってくると責任転嫁 合戦をはじめ、結果ドンドン離脱していきました。
そして、打ち切られた七峰透は、再起を宣言して一旦フェードアウトしました。
2回目:16人の原作者・100人の採点者・報酬アリ
前回より、圧倒的に丁寧で複雑な制作プロセスを考案しました。
- 16人で作品のストーリーの大枠を考える
- 4つのチームに分かれ、それぞれがネームを作成
- 各チームが作成した4本のネームを、協議・評価
- 高評価のネームを、100人ほどのマンガ有識者が採点
- 合格したネームを、ベテラン作家が作画
また、参加者のモチベーションを上げる工夫もされており、前回の失敗を踏まえて大幅にグレードアップしています。
・・・しかし、失敗しました。
この時の敗因は、
- 人の心情がわからないと、良いキャラは描けない
…と、されています。
そして、七峰透はこの後 再登場することはありませんでした。
DAO化すれば実現しやすい
七峰透は、このシステムを実現するために莫大な資金を使っています。
(企業の社長である父親から資金提供された)
なので、一般の人間には到底マネできるシステムではありませんでした。
しかし、現在では状況が違います。
「DAO化」すれば、七峰透のような莫大な資金がなくても実現可能です。
DAOというのは、シンプルに言うと
- 組織内の全員が発言・提案ができる
- アイデア採用の合否などを、投票で決める
- 組織に参加するためのトークンを売買できる
…という特性を持つ組織形態です。
⬇「DAOを詳しく知りたい」って場合はこちら。
参加者のメリットとしては「トークンの市場相場が上がれば、売却益を得れる」というポイントです。
作品の人気が高まるほど多くの売却益を得れるので、真剣にアイデアを出してくれるでしょう。
そして、作画を担当するのは、
- 発案者
- DAOメンバー(しかし、途中で離脱されると絵の雰囲気が変わるリスクが大きい)
- 外部の人に外注(作品の人気が上がったら、報酬を上げないと心証が悪い)
…という風に、複数の選択肢がありますが、発案者が作画担当するのが、長期的には確実でしょう。
完全なDAO化でなく、「一部DAO化」すべき
注意すべき点は、
完全にDAO化すると、すべての参加者が同じ立場になってしまい、色々なアイデアをまとめて1つの作品に昇華する・・・という人の立場の優位性がなくなってしまうことです。
また、プロジェクト自体の運営方針も投票で決めることになってしまいます。
なので、プロジェクト全体を完全DAO化するのではなく、
ひとまずは「マンガ作品に反映するアイデア」をDAOで決める・・・という一部DAO化の方がよいでしょう。
また、明らかに作品によくないアイデアの場合は、「拒否権」を持つ、ということも必要になります。
メリット
圧倒的な”集合知”
多くの有識者が集まれば、それだけ多くの知見・アイデアが集まります。
多くの知恵が集まり、巨大な1つの知恵が生まれる・・・という”集合知”を保有することができるのです。
多くのマンガを読んで、そして考えてきた知見を活かして、幅広いアイデアが飛び出し、議論されてブラッシュアップされていく・・・という集合知は、圧倒的な強みとなります。
情報感度が高い人間が集まる
DAOを理解して参加してくれる人は、情報感度がかなり高い人です。
知識欲求が高くいろいろな事に興味を持ち学んでいる人が多いと思われますので、アイデアの幅も広がります。
”知識”はもちろん、様々な”視点”が、作品に活かされやすくなります。
人気が上がってきたら、士気が高まる
作品の人気が上がれば、DAOのトークンの市場価値が上がります。
とうぜん士気はドンドン高まり、メンバーがお互いに好影響を与えます。
さらにトークンの市場相場を上げるべく、活発に意見を出してくれるでしょう。
そして、より作品のクオリティが上がりやすく、トークン市場価値が上がる好循環が生まれます。
格段に少ない資金で始められる
プロジェクトに参加者を集めるためには、
- トークン発行
- 告知(プロジェクト詳細・作品コンセプト など)
…が、必要になります。
すでにある程度、「有識者たちとの交流」「発案者の知名度」のいずれかがあれば、参加者は集まりやすいですが、
無いならば、メンバー募集のネット広告を打ち、審査する・・・という手段も可能です。
ネット広告費用は数万円程度はかかりますが、七峰透のように莫大な資金は必要ではなくなります。
匿名なので参加者が来てくれやすい
DAOは、トークンを保有していれば参加できます。
つまり、参加者は匿名での参加が可能なのです。
なので、名前や立場を隠したい人でも、参加しやすいのです。
デメリット
落ち目➡ガバナンストークン売却の流れ
マンガ作品の人気が落ちてきたら、とうぜんガバナンストークンの相場価格も落ちていきます。
するととうぜん、損を出さないために、ガバナンストークン保有者は売却に向かいます。
つまり、相場価格下落・人員流出につながります。
人員流出すると、アイデアの質と量が下がり、マンガ作品のクオリティが下がっていく悪循環に陥る恐れがあります。
情報が格段に漏れやすくなる
DAOは、誰でも参加・閲覧できる組織形態です。
それを審査制にして、ある程度のハードルを設けたとしても、やはり匿名の人間が多数いる場所での”機密情報”のやり取りは、情報が漏れやすくなるのは回避が困難です。
特に、マンガ作品の人気が上がれば、他組織の人間が紛れ込む確率はハネ上がります。
DAOを理解している人自体が 少なすぎる
DAOは、とても新しい組織形態です。
一般に理解している人は、とても少数です。
そして、DAOを理解した上で、作品制作に携わる能力も兼ね備えた者となると、極めて少数となります。
その極めて少数の人達を集めるだけで、かなりの労力が必要になるでしょう。
作品全体の一貫性を保つのが困難になる
個々のメンバーのアイデアが出てくるわけですから、とうぜんそこには個人個人の趣味嗜好が色濃く反映されます。
すると、それぞれが現時点で興味を持っている要素をムリヤリねじ込んできたり、自分の好きなキャラを活躍させようとする人もでてくるでしょう。
つまり、
視野が狭まり、「次の1話を面白くする」ことを最重要視してしまい、「作品全体を面白くする」ために視野を広げることが二の次になってしまうのです。
マンガでも、
- 人気キャラ・強キャラが一同に介してバトルロイヤル!
- あの強キャラを瞬殺!?そいつの正体は?
…みたいな展開をすれば、いつでも てっとり早く面白くすることができます。
しかしそれをすると、その後のストーリー展開を広げづらくなったり、キャラの格が落ちたりしてしまうので、作品全体のバランスを考慮すると、おいそれと出来ないのです。
長期的視点でストーリーを考えてくれる人を集める必要があるといえます。
理解しやすいアイデアが、支持されやすい
DAOでは、トークン投票でアイデアの採否を決めるのですが、そうなると
「良いアイデア」ではなく「誰でも理解しやすいアイデア」が採用されやすいです。
長期的な視点で良いアイデアを説明する場合は、とうぜんアイデア自体の説明だけでなく、
「このアイデアがなぜ、長期的に良いのか?」と、長期的展望に基づく理由も説明することになるので、説明文も長くなりがちです。
そうなると、他メンバーはその理由を理解するだけで疲れてしまうかもしれません。
それより、短文で説明可能でインパクトの強いアイデアが採用されやすくなると思われます。
プロジェクト全体の長期的な成功よりも、「短期的なキャッチーなアイデア」が採用されやすいかもしれません。
ライバルが潰しに来るリスク
匿名で参加できるので、ライバルがトークンを大量保有して、プロジェクトを潰しにくる恐れがあります。
作品に悪影響を与えるアイデアをわざと提案し、その悪アイデアに大量投票して採用せざるを得なくなる・・・となれば、作品の人気は下がっていきます。
なので、明らかな悪アイデアに対しては「拒否権」を持つことで阻止できます。
しかし、
拒否権を頻繁に行使すると、他のメンバーからの反感を買うリスクもあるので、線引きが難しいところです。
可能な戦略
独自プラットフォーム運営
多種多様の大量のオリジナルマンガ作品をアップロードして、サブスク(月額制)でプラットフォーム運営していきます。
作品の「一話目まで」や「第一巻まで」を会員登録なしで無料で試し読みできるようにすれば、とりあえずは読んでくれる人は来ます。
その流れで、
(クレカ情報の登録を条件)無料の読み放題期間を数か月 設ければ、無料の期間が終わっても惰性でそのまま有料会員に移行してくれやすくなります。
また、初期の集客手段として、特に自信がある作品を広告にするとよいでしょう。
ネット上では、様々なマンガ作品の広告が掲載されているのを、よく見かけます。
同じように、ネット広告に出稿して、登録不要の試し読みをエサにして作品を読んでもらいます。
そして、「続きを読んでみたい!」と思ってくれる人は、「無料の読み放題期間➡有料会員」という流れで課金してくれるチャンスが生まれます。
また、
「他の作品は、どんなのがあるのかな?」と思ってくれる人も、他の作品を試し読みしてくれて、それらの作品の中で複数 気になる作品があったら、有料会員になってくれるチャンスが生まれます。
参加メンバーへの報酬➡NFT配布
マンガ作品の制作DAOに参加してくれるメンバーに、報酬としてマンガ作品のキャラクターなどのNFTアートを発行・配布します。
参加メンバーには、
「作品の人気が上がれば、NFTの相場価格が上がる(高い売却益が得れる)」
…というメリットが生まれます。
つまり、報酬としてお金を払う場合は、多大な資金を事前に用意する必要がありますが、NFTを発行するには、特に資金は要りません。
また、
NFTを配布した後も、作品の人気がNFTの相場価格に直結するので、制作に意欲的に参加してくれやすくなります。
初期から関わっているメンバーは、それだけ多くのNFTを配布されて保有している・・・ということなので、マンガ作品の人気を上げるために、本気でアイデアを出してくれるでしょう。
資金調達➡クラウドファンディング
(前述したとおり)参加メンバーへの報酬を、NFT配布にすることはできますが・・・。
やはり、メンバーでない外部へ仕事を発注するなどの場面も出てくるかもしれません。
その時には、報酬は お金で払う必要があります。
なので、お金をある程度あったほうが、作品制作もスムーズになります。
その資金調達として、クラファンが使えます。
従来型のクラファンだけでなく、
⬇トークン発行型クラファンなども存在しますので、活用してみると良いでしょう。
注意点としては、知名度がないと ほとんど支援金は集まらないことです。
なので、ある程度の知名度・ファンができた後に戦略の選択肢に入れるとよいでしょう。
メタバース会議で当事者意識が高まる
チャットのみの会議より、メタバース空間での会議の方が、メンバー同士の心理的な距離感も縮まりやすく、連帯感も生まれやすいです。
もちろん、アニメ志向の3Dアバターなので、素顔を明かす必要もありません。
(声を知られたくない場合は、ボイスチェンジャーも使えます。)
結果、重要なメンバーがいきなり離脱・・・という自体も起こりにくくなり、組織として安定感が出てくるでしょう。
ストーリー重視の作品をメインに制作
バトル重視のマンガの面白さは、言語化しにくく構図の伝え方が難しいです。
アイデアを出すときに、構図を下書きにしてアップロードする・・・という手間がかかる場面も多く出てくるでしょう。
また、作画する人の技量も、ハードルが高くなります。
しかし、
ストーリーは、言語化しやすくアイデアを伝えやすいです。
セリフ回しなど、具体的な指示、改善提案がしやすいからです。
DAOでは、ストーリー重視のマンガを制作していくべきでしょう。
未来予測:あらゆる娯楽作品 制作組織がDAO化?
現在、DAOという組織形態は、急速に注目されています。
すでに、NFTやブログ運営のプロジェクトがDAOで行われている前例もあります。
つまり今後、娯楽作品の制作プロジェクトが、DAO化していく可能性が高いのです。
個人でもプロジェクトを立ち上げて、娯楽作品を作れるようになっていく可能性があるのです。
ヒット作を起点に、個人でも経済圏を作れる
複数の作品を作って、それらの1つでも人気が出たら、その作品をメディアミックスできます。
多種多様のグッズを制作・販売したりできます。
⬇また、メタバース空間でドラマ・映画を作ることも可能です。
(それら派生プロジェクトも とうぜんDAO化することができます。)
そんな風に、DAOという組織形態を使って個人が経済圏を作っていくことが可能なのです。
DAOという在り方が誕生したことにより、これから、娯楽作品の市場は大きな変化がもたらされていくでしょう。
読みやすい話数で完結する 名作マンガを量産可能
メンバーがドンドン入れ替わっていく前提の組織形態であるDAOでは、長期連載は不向きです。
メンバーが入れ替われば、とうぜん作風・志向も変化していきます。
すると、ファンも違和感を感じてしまうでしょう。
なので、長年続けていくようなマンガは、不向きなのです。
しかし、
10話~50話など、比較的 少ない話数で短期間の制作期間を予定するなら、作風・志向の変化も小さくて済みます。
また、最初に物語の大枠プロットを決めて、それに沿って細かいストーリーを考えていく…とすれば、違和感も少なくて済むでしょう。
また、短期間を前提にしなくても、「人気があるうちは続ける。人気が落ち始めたらすぐに完結。」というのもアリです。
マンガ作品では、「人気が下降し始めても、ダラダラ引き伸ばす」ということが多いです。
しかし、
トークンの市場相場が上がっているうちはストーリーを広げるためにアイデアを出しますが、人気が下降したら「早めに終了して、次回作を作る」という風に意識が向きやすくなります。
つまり、作品の人気がまだ高いうちに惜しまれつつ有終の美を飾り、ドンドン新しい作品を生み出す流れが生まれやすいとも言えます。
七峰透は、時代を先取りしすぎた?
七峰透の制作システムは、以前は莫大な資金がなければ不可能でした。
しかし、DAOという組織形態が登場したことにより、可能になります。
七峰透は、時代を先取りしすぎたのです。
つまり、「七峰透に、時代が追いついた」と言い表すこともできます。
この記事では、「作品の一貫性を保ちやすくするため、”一部をDAO化”すべき」と僕は主張しました。
しかし、そのうち完全なDAOでの作品制作も行われていくでしょう。
すでに、完全なDAO化を前提に進んでいるメディアも、複数あります。
・・・そして、
七峰透の2回目の登場時の敗因である「キャラクターの心を描けていない」というのも、やや強引な印象があります。
なぜなら、そのキャラクターの「思想・目的・性格」などの設定をしっかりと決めて、参加メンバーに情報共有しておけば、矛盾は生まれにくいです。(生まれたら指摘して修正すればよい。)
ストーリー重視であり、キャラクターの感情表現を強調せずウリにしないマンガなら、DAO化に適しています。
現に、原作者の前作である「デスノート」も、キャラクターの感情表現より、圧倒的にストーリーの密度・進行スピードに比重がおかれています。
DAOで得たアイデアをまとめて作画する能力さえあれば、読みやすいボリュームにまとまったマンガを、次々と生み出せる可能性があるのです。
そして、
- ”作品のストーリー作り”を担当するDAO
- ”出版メディアとしての運営戦略”を担当するDAO
…というように、”マンガ制作”と”出版メディア運営”の、それぞれの有識者たちでDAOを形成するのも可能です。
もちろん、DAOという組織形態自体、まだまだ誕生したばかりであり、探り探りで活用法が模索されている状態です。
うまくいく保証など、ありません。
しかし、大きな可能性を秘めています。
・・・「少年ジャンプに掲載している以上、編集者の意見を尊重すべき」
…というのは、一理あります。
しかし、少年ジャンプに掲載せず、独自プラットフォームに掲載するなら、編集者は不要です。
「キャラクターの心を描けていない」という理由で否定され、作品から退場した七峰透は、合理的すぎて作者・編集部から危険視され、強引に排除された・・・と解釈することもできます。
しかし、作中では否定された流儀ですが、時代の流れとともに認められていく可能性は、かなり高いといえます。
これから、娯楽作品は多くの人の手による「共創」の時代になります。
七峰透の発案した制作システムは、これからのスタンダードになっていく可能性を秘めているのです。
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